うなぎ屋の経済

Column No.9

 連日の雨で天竜川の水量が増えています。堤防が決壊するほどではありませんが多くの真水が遠州灘に流れ込んで、貴重な真水が雲散霧消となってしまいます。日本は、水資源が豊かで農業用水や生活用水には事欠きません。水資源の乏しい国では真水の確保、その使い方に厳しいものがあるだろうなと想像します。そんな国のことを想起すると天竜川の水が流れ去ってしまうことは実にもったいないと思いを巡らす今日頃です。

 また、川が増水し流れが速くなってしまうと、マリアナ海嶺からはるばる流れ着いたウナギの稚魚、シラスウナギはどうなってしまうのかと心配になります。折角、故郷日本までたどり着いたのに海のもくずと消え去るのか、また遡上してくるのでしょうか。何が原因なのか近年シラスウナギの収穫量が激減し、うなぎ養殖事業者を悩ませています。かつては1kg20~30万円だったものが平成24年には60万円、昨年は1kg300万円もの高値を呼んだとか。この帰結として当然のことながら、うな重やうな丼は値上がりしました。うなぎ屋としてはやむを得ない値上げなのでしょう。

 久しぶりに近所のうなぎ屋さんを訪れました。ふっくらしたウナギが重箱からはみ出んばかりに乗ったうな重を期待しましたが、出てきたうな重のかば焼きは小柄でややスマートで上品なものでした。その数日後、貴賓のおもてなしに、もう一軒のうなぎ屋さんを訪れました。そこでは従来通り立派なウナちゃんが乗ったうな重で、お客様に喜んでいただけました。その二つのうな重のお値段ですが、前者が2500円、後者が3500円でした。
 うなぎ屋さんのスタンスは二通りです。一方は質を落として価格を維持する。他方は質を落とさず値上げをする。あなたが店主だったらどちらのお店の戦略を取りますか?
 やはり後者のうなぎ屋さんが正解でしょうね。安くないご馳走のうな重を食べに行くのは特別なことです。美味しい立派なかば焼きでなければなりません。出費はもとより覚悟の上のことです。スマートで小ぶりなうなぎでは折角の出費が無駄になるだけです。

 こうしたことはうなぎ屋さんの経済に限ったことではありません。ラーメン屋でも同じです。ラーメンは、まずはお腹を満たすことです。安くても麺が少ないラーメン屋さんにはリピート客は来ないでしょう。ラーメンは、第一に量です。味ではありません。ラーメンはそういうものです。お客さまから見たもっとも期待する要素は何か。どんな事業でも、そこに焦点を当てた経営活動がキーです。

 最近うなぎやラーメンよりもコーヒーにはまっているんですよね。自宅の近所にできたコーヒーショップ「らんぷ」のコーヒーは絶品です。

2016年9月30日

■本コラムを執筆したのは

株式会社ソフテス 取締役会長 鈴木忠雄
名古屋工業大学経営工学科を卒業後、川崎重工業(株)に入社。1972年にヤマハ発動機(株)へ移り、技術管理部長や舟艇事業部長を歴任。1997年に(株)ソフテス設立に参画し、2000年より代表取締役社長、のちに会長に就任。著書『経営改革のためのERP導入』で「ユーザダイレクト方式」を提唱し、経営・業務に根差したデータ活用の重要性を説き、企業経営の未来を見据えた活動を続けている。

■本コラムを執筆したのは

株式会社 ソフテス 取締役会長 鈴木忠雄

名古屋工業大学経営工学科を卒業後、川崎重工業(株)に入社。1972年にヤマハ発動機(株)へ移り、技術管理部長や舟艇事業部長を歴任。1997年に(株)ソフテス設立に参画し、2000年より代表取締役社長、のちに会長に就任。著書『経営改革のためのERP導入』で「ユーザダイレクト方式」を提唱し、経営・業務に根差したデータ活用の重要性を説き、企業経営の未来を見据えた活動を続けている。